愛で壊れる世界なら、
あまりに強硬な出来事に、ミアシェルは引き留めようとする友人たちの手を擦り抜け、神殿内に消えゆく一団を追いかけた。白い翼が風を打ち、大きく羽ばたいていく。セルフィルもまた、そんな彼らを放っておけるはずもない。
許可もなく入り込んだその場所で、しかし行く手を阻む者はなかった。皆出払っているのか、善良な天使しかいない世界であればこそ警備などもとよりいないのか、見咎められもせずにどんどん奥へと入り込む。
それでも大きな建物だ、いくつもの部屋や廊下で入り組んでいるに違いなく、簡単に見つかるとは思ってもいなかった。
何度目かの曲がり角に差し掛かった時、不吉な音が、した。
風を切る鋭い音。次いで鈍く、重い音と、息を吐いたのか飲んだのか、苦しげな、声。まるで人間の死に際のような声にもならない声だった。噂に聞く地底への扉向こうから聞こえるという呻きのような声だった。
「ヴァル……? ヴァリオル…………?」
咄嗟に止めようとしたセルフィルの手を振り切って走り出す。翼を羽ばたかせ、白い、ただただ白い廊下を駆け抜ける。
「ミアシェル……」
追うセルフィルとともに飛び出したのは、大きな広間。建物の中であるはずが太陽は近く、神殿の白さと相まって、目を焼くほどに眩しい。柱があり、屋根があり、だというのにそこは屋外だった。
眩さに眇めた目は、それでも目的の人物を見つけ出す。
「ヴァ……ル……」
中央に、跪いてでもいるかのようにしゃがみ込み、うわ言のように彼女の名前を繰り返して。
ミアシェルは飛び出そうとした、飛び出せなかった、それは傍に寄り添うセルフィルも同じだった。
「……うそ……ヴァル、怪我……血が…………」
彼の背中には、片翼。対となるものが生えているはずの箇所からは、鮮血が迸って流れ落ちていく。足元に、……片翼の無惨な成れの果て。
近く佇む男の手にした鎌からもまた、赤いものが滴る。恐らく刑の執行人なのだろう。
刑――いったい何の?
竦んだ足で、それでもミアシェルはよろりと歩を進める。真っ白な顔をして、涙を溢れさせながら。
振り向いたヴァリオルが恋人の姿を認め、その顔を苦痛に歪める。
「ミア、俺……俺は……っ」
「……ヴァル…………!」