愛で壊れる世界なら、
降り出した雨に気を取られて頭上を見上げた。
まだ猶予があると見えていた空は、あっという間に重い雲に覆われていて、ぽつりぽつりとした雨粒も、一気に勢いを増して地面を、レイチェルたちを濡らしていく。
早く帰ろう。帰ってあったかい紅茶でも飲もう。
風邪をひいたら怒られてしまうからと、それでも隠れ家は秘密だからねと、無邪気にそんなことを話しながら、手近なところにあった布切れなんかを雨具がわりにそれぞれ頭からかぶり、帰り道を急いだ。
地面が揺れたと思った時にはもう遅かった。
バランスを崩したレイチェルの目の前で、同じように足を取られ転ぶフレーテ、咄嗟にしゃがみ込むシエル。
何が起きたのか理解出来ずに互いに手を伸ばし、……レイチェルの覚えている幼なじみの姿は、それが最期だった。
轟音とともに雪崩る山肌。遠く飲み込まれていく木々たちが、いつか海へ連れられて見た波のように押し寄せる。自分が悲鳴を上げたのかどうかすら、定かでない。
ただ、土砂が雨雪のように見えたことだけは、覚えている。