愛で壊れる世界なら、
「レイチェルさま」
ユーニに手を取られ、椅子に腰掛けたままぼんやりしていた意識を取り戻す。荷造りの途中だった。いつの間にか部屋はすっかりがらんどうに。
床に膝をついて顔を覗き込むユーニは、まっすぐにレイチェルを見つめていた。
「――――逃げましょうか」
向けられた言葉に理解が追いつかず瞬きするレイチェルに、ユーニは穏やかに微笑む。
「これでも生活力あるんですよ、レイチェルさまお一人くらい養えます。あ、もちろん贅沢はさせてあげられませんけど」
ゆったりと手の甲を撫でる彼女の手のひらは、荒れているのかやわらかな感触とは言い切れず、それでもとてもあたたかで優しい。
すべてを飲み込んで、諦めた――ふりをしていた。そのことに気付いて涙が滲んだけれど、微笑みを浮かべることが出来のは、暴いたのが彼女だからだろうか。
「……楽しそうだけど、やめておくわ」
「差し出がましいことを申しました」
「ううん、ありがとう」
まだ親しんでいるはずのない関係性で、だというのに親身になって接するユーニに、レイチェルの心は少なからず慰められていた。
両親からしてみれば足りない人手の中から適当に選んだだけのことかもしれないが、彼女をあてがってくれたことに感謝する。ともに過ごす日々は束の間でしかなくとも、彼女との時間はとてもあたたかい。