愛で壊れる世界なら、
この館での滞在はあと幾日かと、不意に切られた期限。
そうとは知りつつユーニは部屋に花を生け、掃除だなんだと一層丁寧に。彼女が整えてくれる環境はこれまで以上に過ごしやすく思えた。
片付いた空間を見渡す。持っていくものの他、ついでとばかりに不要なものを処分したせいで、すっかり広くなってしまった。
呆気ないものだ。いろんなものを持っていた気がするのに、欲しいものもたくさんあった気がするのに、こんな状況になって好きな物を持たせてやると言われても、なかなか何も思い浮かばない。本邸から取り寄せたい品物リストを作成しようとしたものの、それも白紙のまま。いざとなると必要なものなんてそうはなかったのだと知る。
いっそ身一つで養子入りした方が気持ちも軽いかもしれない。
侯爵家へは、迎えが来たらそれに連れられて向かう手筈となっていた。
つまりは身支度が出来てしまえば、迎えが到着しないことにはどうしようもなく、ぽかりと空虚な胸を抱いて、淡々とその時を待つ。
十年という歳月はきっと、大人になって振り返ればそう長いものでもないはず。今は思い返そうにも、息苦しさに負けて目の前に押し迫る直近のことしか考えられないけれど、いつか、きっと。
懐かしい日々だと笑える日が来る。
伯爵令嬢としての人生はこれで最後と、改めて決別の気持ちを固めつつ、レイチェルはベンチに腰かけ庭を眺めていた。陽射しを遮った静かな木陰、思い出にするなら美しい光景を記憶に刻んでおきたかった。
他人の目を避けた心地良い時間だった。……ユーニの鋭い叫び声を聞くまでは。