愛で壊れる世界なら、


 ――いつからか降り出していたらしい。

 音は遠いのに、じっとりと濡れた身体が重だるい。身も心も冷えていた。湿気に覆われて、藻掻くほどに息が詰まる。
 立っているのかそうでないのかもわからないまま、上空を仰ぐ。
 ゆらゆらと揺れる闇が重く垂れ込め、凍える胸を鈍く締め付けていく。

 痛い。苦しい。逃げ出したい。行く宛てなんてない。どこでもいい。ここではないどこか。痛くないところへ。苦しくないところへ。

 行けるはずなんてない。助けなんてあるはずがない。どこへも行けない。逃げ出すなら道は一つしかない。ここではないどこか。痛くないところへ。苦しくないところへ。



 助けて。――希望なんていらない。

 助けて。――期待させないで。

 助けて。――もう何もいらない。

 助けて。――死んでしまえばいい。


 助けて。


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