クリスマスイブ、牛丼屋にて。



「……あの。
お客さんがこなさすぎて、もう何もやることがないです、若松さん。」



入り口の影からひょっこり覗き込むかたちのままそう告げると、若松さんは私を見て可笑しそうに笑った。



「そりゃ、こんな日に牛丼屋くるカップルなんかいねぇだろうからなあ」



遠慮せずにこっち来て座れよ、と手招きして机の隣に置いてあるパイプ椅子を勧めてくれたので、言われるがまま腰を下ろす。

若松さんと横並びになる形だ。



「一応、メンテナンス全部と今日の分の棚卸しは終わらせてあります」

「え、棚卸しまでやってくれたの?
すげー助かる。ありがとうな」



そう言って笑いかけてくる若松さんは、パソコン作業をしていたからか珍しく銀縁の眼鏡をかけていた。


見慣れないけど、眼鏡、似合ってるな。

元々端正な顔立ちをしているとは思っていたが、眼鏡によってより知的な雰囲気が際立っている。



「いえ。相沢さん達が仕込みとか全部やってくれたおかげです。」

「あー、ディナーの時間帯もかなり客入り悪かったみたいだからな。
あいつらもヒマすぎてうんざりって顔だった」



普段、会えば元気に挨拶してくれる相沢さんのげんなりした顔が容易に想像できて、思わず笑ってしまった。

あの子はきっと、忙しい方がやりがいを感じるタイプだ。


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