クリスマスイブ、牛丼屋にて。



独特で、でもどこか落ち着く香りが部屋中を包む。



暖房で乾燥している空気がしみたので、私は目をぱちぱちと瞬かせた。

今日は4時間だけのシフトだからって睡眠を取らずに来たのがよくなかったのかもしれない。


少し、眠たくなってきた。




「朝倉ちゃん、眠いの?」

「えっ…、いえ」


「ウソつくなって。顔に出てる」



とっさに否定した私の言葉に、若松さんはお見通しだという表情でクツリと笑った。



本当にこの人はめざとい。


眠たいのことがバレてしまったのが決まり悪くて。
誤魔化すように視線を落として指先をいじる。



「……今日はもう上がんな、朝倉ちゃん」



柔らかなその声に驚いて視線を上げると、
タバコ片手にこちらを見る若松さんと目が合った。



「…あの、でも私、退勤時間まであと2時間もありますよ」

「だってもうやることないんだろ?
客も来ないだろうし、上がって今日はゆっくり寝ろよ」



「……。」

「心配すんなって。ちゃんと2:00で退勤切っといてやるよ」


「ありなんですか、それ」


「社員特権。今日だけ特別な。

誰にも言うなよ」




いたずらっぽい表情でグッ、と親指を立ててくる若松さんがおかしくて、私は素直にうなずいてしまった。




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