クリスマスイブ、牛丼屋にて。



いただきます、と小さくつぶやいて一口食べる。


……おいしい。

けど、タレがしみすぎて少ししょっぱい。



「やっぱ、ちょっとしょっぱいか?」



「…ん、はい。少し」

「だよなあ、2時くらいになったら肉炊きなおすか…」



今度は私が机の前に座り、隣のパイプ椅子に若松さんが座っている。


黙々と牛丼を口に運ぶ私を何気なく見ていた若松さんが不意に口を開いた。



「朝倉ちゃん、今日ケーキとか食ったの?」



脈絡のない質問に一瞬、ケーキって?と思ってしまったけれど。

そうか、クリスマスだから。




「いえ。毎年クリスマスだからといって、特別なものを食べたりとかはしませんね」



元々、自分の家族がそういった正月や誕生日以外のイベントごとに興味のある方ではなかったので。

正直クリスマスも、なにも特別なことはなかったし、ケーキを食べる習慣もない。



クリスマスが近づくにつれて世間が賑やかになっていくのは見ていて楽しいけれど。




「じゃ、これも食え」


そう言った若松さんが、机の上にポン、とプリンを置いた。


「プリン」

「クリスマスだからな。俺の奢り」



「……ありがとう、ございます」


若松さんなりの気遣いが嬉しくて、私は思わず笑顔になる。


なんだかんだ今日は、至れり尽せりだ。


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