クリスマスイブ、牛丼屋にて。
「わたしだってね、今日たまたま恋人と予定が合わなくてバイト入れただけかもしれないじゃん」
「は?相沢彼氏いんの?」
「……いや、いないけど」
「やっぱいないんじゃん」
一瞬だけ見栄を張ってみたけど、いないものはいないので、余計むなしくなった。
まあ、いまさら穂高に見栄張ったって何の意味もないんだけどさ。
「そもそもね、クリスマスは恋人と過ごすっていう世の習慣がいけないと思うんだよね」
「はあ」
「で、クリスマスにバイト=恋人無し、っていうのを察せられる環境に仕立て上げられるのは世の悪だと思うわけ」
「へえ」
「おい、ちゃんと聞け?」
わざと気のない返事をしてくる穂高をひじで軽く小突いてやると、面倒くさそうにこちらに視線を流してきた。
黒のTシャツとスラックスに、牛丼屋のマークが入ったグレーのサロンエプロン。
ファーストフード店らしく全体的にテロテロしててどこか安っぽい制服なのに。
そんな流し目が様になって見える穂高の顔とスタイルが羨ましい、と思わなくもない。