クリスマスイブ、牛丼屋にて。
「相沢んとこは、帰ったらケーキあんの?」
「あるわけないじゃん。うち仏教だかんね」
「俺もだわー」
まあ、現実はこんなものだ。
穂高と取り留めもない会話をしながら作業していると、不意にバックヤードの扉が開く音する。
そしてスーツにグレーのコートを羽織った男性がひょっこりと顔を出した。
「はよーう、客来てるか?」
「あ、若松さん。おはようございまーす。
お客さん全然来ませんよー」
「やっぱりな」
少し苦笑した若松さんは「うー、さっむ」と呟きながらそのまま事務所に引っ込んでいった。
1年前くらいこの店の店舗マネージャーになった社員の若松さん。今日は21時から翌朝6時までのシフトで入っている。
店内の時計を見れば、なんやかんやで退勤時間まで残り5分だ。