年上幼なじみのあぶない溺愛
急いで距離をとるように立ち上がる私を、彼はぼーっと眺めていた。
というより、焦点が合っていない気がする。
もっと不機嫌そうな顔をして『なんでここにいるんだ』と言われるかと思っていたけれど、火神くんはしばらくの間、眠そうな顔のままぼーっとしていた。
「あの、目的地に着いたよ」
「……ん、さんきゅ」
明らかにいつもと様子が違う火神くん。
なんというか、いつもよりずっと雰囲気が柔らかい。
「純希、いつまで寝てんだよ。早く荷物持て」
「……ああ、悪い」
「え、もしかして火神って寝起きが弱かったりする?」
「よく言われる」
私だけではなく、他の人たちも火神くんの異変に気がついたようで、いつしか男女ともに彼を囲んでいた。
望美ちゃんも興味津々だったようで、火神くんに寝起きが弱いのかと質問していたほどだ。
先生が「早くバスから降りろ」と言われるまでの間、みんな火神くんを注目する形となり、この日を境に“火神くんの寝起きは可愛い”という新たな噂が流れるようになったと後日、望美ちゃんから聞いた。