明日、雪うさぎが泣いたら
「……私の心臓が止まる理由がお前なら、それでもいいが。……冗談だ」
そんなの、絶対に嫌だ。
それに、そんな日が来るなんて考えたくない。
ずっとこの世に長らえていられる人間などいなくても、この人にそんな日は来ないと信じていたい。
こんなことを言うと叱られるだろうが、もし叶うなら、それを見ずにいられたらいいとすら思う。
一瞬でも想像してしまったことが悲しくて、掴まれたままの手で側にあった胸を叩く。
一発目は受けてくれ、もう一発繰り出そうとした拳は楽に捕まってしまった。
「それより……いいかげん、私を部屋に入れてほしいのだが」
許可なく寝室に入り、寝顔まで見ておいてどの口が言うのだろう。
そう確かに思ったのに、文句は声になってくれなかった。
「……もうちょっとだけ、あの子たちを見たら」
もう、私たちは夫婦なんだろうか。
実感がわかないというのとも、少し違う気がする。ともかく、ここで断る理由はないのだ。
まさか、これが初夜だなんて言わないだろうけれど――それもまた、随分甘いのだと分かってはいる――あの子たちの真っ赤な目が見たい。
「ほら。雪の精には分からないかもしれないが、これが形を保っているということは、外は寒い。まさか、熱を出して破談にする計画ではないだろうな」
ぶつぶつと言いながらも、器用に二匹を手に乗せ、私の前に差し出してくれる。
「恭一郎様と違って、私はそこまで策略家ではないです。……わざわざ、取ってきてくださったなんて」
それなら、こうとも言える。
手にちょこんと座った二匹の雪うさぎが溶けないのは、恭一郎様の手もとても冷たくなっていると。