明日、雪うさぎが泣いたら
そうだとしても、その手はずっと私を守るだけだった。
最後の最後まで、甘い。
今日だって、あれほど嫌がった裏庭に南天の実を取りに行ってまで、私を甘やかしてくれた。
「ごめんなさい。私はともかく、恭一郎様の方が風邪を引いてしまいますね」
何のおかげか目が白雲に慣れ、薄暗い庭に人影が見えた。
邸の者だろうが、ここからではよく見えないし、万一別の人間であれば、私がまじまじと相手を見つめるのもまずい。
まさか、噂好きの酔狂な人が、真偽を確めに来たのでもないだろうけれど。
「そうだな。好いた雪女になら、凍らされてもいいと思うが……せめて、これが終わった後がいい」
私の視線を追い、私らしくない台詞のわけを瞬時に理解したうえでの意地悪。
もはや雪の精よりも格上で、しかしちっとも嬉しくない喩えに不満の目を向ける。
影から隠すように、さりげなく私の後ろに回りながら、それには無言でにこりと笑った。
冷たい指で促すのを躊躇ったのか、袖の上から手を包まれる。
こういう優しさは変わらない。
遠慮してるようで、それでもぐっと引いて催促するのも。
怒って拗ねてしまいたくて、なのに、すぐにありがとうとも言いたくなる。
問答無用と中に連れて行かれながら、脇に残された雪うさぎを見遣る。
向かい合って、今にも額がくっつきそうな大小の二匹のうさぎ。
何だか、口づけをする寸前のようにも、ただ何かを言い合っているようにも見えた。
二匹の気持ちは、こうして見ているだけでは分からないけれど。
はっきりしているのは、やはりその赤い瞳は可愛らしくて――でも、涙を浮かべているようで切なくなるということだ。