明日、雪うさぎが泣いたら
・・・
『小雪。隠れていないで、いいかげん出てきなさい』
まだ若い母様のげんなりとした声がする。
『もう。そんなふうでは、お兄様に呆れられてしまいますよ』
ああ、そうか。
これは、兄様と初めて会った時のことだ。
私に兄ができた、忘れようもない大切な日。
それなのに、私はほとほと薄情者だ。
夢の男の子だけでなく、こんなことまで記憶が薄れていたなんて。
『いいんです。……母上。いきなりどこの誰とも知れない男が現れて、今日から兄だと思えだなんて無理な話です』
兄様はそう庇ってくれたけれど、もちろん事前に知らされてはいた。
「小雪にはお兄様がいるのよ」と。
そう言われた私は、ドキドキわくわくして興奮していたはずなのに。
いざ紹介されると、母様の後ろに隠れているので精一杯だったのだ。
『それよりも、申し訳ありません。……母上にもご迷惑を』
この日を夢に見るのは、隣にその人がいるからだろうか。
懐かしさと照れくささが、胸の中で混じり合い広がっていく。
謝らないで。
あなたが謝ることなんて、どこにもないもの。
ただ、私はひどく混乱していたから。
そう、恐らく、夢の男の子と出会った前後。
どうしたわけか、この世界に迷い込み、そして扉が閉じられ――ありがたいことに、ここの姫として受け入れられた。