明日、雪うさぎが泣いたら
・・・
幼子の私が瞬きをすると、場面が切り替わった。
『……ゆ……!! 小雪!! 』
誰かに呼ばれている。
それもかなり激しく、叫ぶように。
早く目を覚まさなければと、どうにか目を抉じ開けると、ほっとした顔に見下ろされていた。
喉がカラカラなのに、寒気がする。
頭はがんがんと揺さぶられるように痛むし、節々が痛んで動けない。
ああ、なるほど。
今度は、あの夢を見ているのだ。
神隠しにあっていた私を、兄様と一彰が裏庭で見つけてくれた時の。
『しっかりしろ!! お前に何かあったら……』
兄様のせいじゃない。
だって、見つけてくれたんだもの。
大丈夫、だって、おかげでこの後私は助かるんです。
『小雪、目を開けて。だめだ、お願いだから……』
――行かないで。
頬っぺたに触れる指が震えている。
今と比べると、まだ小柄な兄様の肩越しに牡丹のように舞う雪が見えた。
(あれじゃ、雪うさぎは作れないなあ)
心配させたくないのに、熱のせいか意識が安定しない。
こうして夢を見ている現在の私に熱はないはずなのに凍えるように寒く、それでいてぼんやりする。
『小雪、頑張れ。絶対に助けるから』
(知ってます、兄様。だから、そんな顔しないで)
おんぶしてくれた拍子に、雪原に何かが落ちた。
倒れた時に乱れたのか、それとも私の着け方が下手だったのか。
上手く留まっていなかったバレッタが、地面に転がる。
『あにさ……』
分かっている。
ここで拾ってくれと頼むのは酷だ。
涙に濡れた目が、スッと感情を失くしそれを見つめ――何事もなかったように私をおぶったまま、兄様は歩きだす。
雪うさぎのような真っ赤な瞳のまま、もう何も言わずに。