明日、雪うさぎが泣いたら
六つの花
通い婚ではなく、恭一郎様の邸に住まうというのは、考えようによってはよかったのかもしれない。
当然ながら、恭一郎様と過ごした夜は三日どころの話ではないけれども、私にとっては謎の風習が多々あるのだ。
「……お相手が帰れないように沓を隠すだなんて……。ちなみに、男性が沓のないまま外へ放り出されたらどうするんでしょう?」
「……知るか。お前の性格も事の次第も、母上はご存知なのだから、そういう心配は要らぬ。第一、同居なのだから、意味もなく不要で恐ろしいことを考えつくな」
かねてより不思議に思っていたのだが、さすがに兄様には尋ねにくかったことを、今の恭一郎様に質問してみる。
難問だったのか、答え方に迷ったのか。
ともかく、苦々しげにぴしゃりと言い捨てられてしまった。
「ありがとうございます、恭一郎様」
本来なら、それは無意味でも不要でもなかったはずなのだ。
厳かで強固に見えるこの国での婚姻関係は、その実とても儚く脆い。
もしかしたら、だからこそ少しでも形にしておきたくて、そんなしきたりが数多くあるかもしれないけれど。
そしてそれは、私たちの関係にも同じことが言える。
だから、恭一郎様にはそのどれかひとつでも実行する理由もあっただろうし、それが可能だった。
「礼は言わない方がいい」
悲しげに微笑まれるのは、何より辛い。
この邸の自分の部屋でなく、恭一郎様の邸に住めば、もうお礼も言えなくなるのか。
――心を決めるまでは。