明日、雪うさぎが泣いたら
「理由はどうあれ、貴女は優しい手を取ったのだと私は思っているの。貴女の幸せは、貴女自身の選択によって成されていくもの。時に壊れたり、修復したり、再度探さなくてはいけなくなることもあるでしょう。それは険しいかもしれないけれど……離れていても、応援しているわ」
この国の慣習がどんなものであっても、私は幸せ者だ。
母が狐か兄かで迷うまで、こうして暢気に暮らすことができて。それを見守ってくれる人たちがいて。
「もしも、貴女たちの想いが重なり合う日が来るなら……二人で幸せになれるといいわね。少なくとも、二人ともが幸せでありますように」
もう一つの世界で、私がどのような生活を送っていたのかはまだ知りようがないけれど、この歳までここで過ごし、成長することができて本当によかった。
もしかすると、どこか別の世界に今も私の帰りを待つ人がいるのだとしても――どうしたって、ここで側にいてくれた人たちのことをなかったことにできるはずもない。
確かにここは意味不明で、理解に苦しむことがあり、不便なことも多いけれど。
他の世界では巡り逢えなかった、素晴らしい縁だったのだから。
「恭一郎殿のことを頼みましたよ。あの方の天秤は、時折酷い狂い方をする。でも、貴女の言葉には耳を傾け、貴女の手が引っ張れば留まってもくれるでしょう。貴女なら、きっと救える。……いいえ、貴女にしか恭一郎殿は救えない」
「……母様……? 」
おかしな喩えだ。
恭一郎様が時折――わりと高頻度で――けして正しいとは言えない決断を下すことは、周知の事実である。
もちろん、母様だって、そんな恭一郎様の性格をもうずっと前から把握していただろう。
それなのに、どうして今そんなことを言うのだろうか。
まるで、近い将来、恭一郎様が何か危険を犯すと知っているみたいに。