明日、雪うさぎが泣いたら
私の瞳が揺れたのを見て小さく息を吐き、噛み砕くように繰り返した。
「恭一郎殿は、あまりに深く貴女を想い過ぎている。誤った選択をしてしまうことも、きっと少なくはない。間違っていると知りながらも、ある意味恭一郎殿にとってはそれが正となってしまう。だから、頼みましたよ」
「……はい」
そんなの、悲しすぎる。
そんなことかあるなら、もちろん全力で止めなくては。
かつて、恭一郎が必死に私を止めたみたいに。
今度は、 私が力一杯押し止めるのだ。
「本当にありがとう、母様」
別れがたいけれども、もう夜も更けた。
もう行かなくてはと思いつつ、最後に母にぎゅっとしがみついた。
「まあ、何と言っても元兄の邸ですから。すぐに会えますよ」
いくら大雪と言えど、これまでも漠然と憧れを抱いてはいた。
その一方で、夢物語だと――とても現実には起こらないだろうと諦めていたのかもしれない。
だから、つい感傷的になっているだけだ。
それ以外に何があるというの?
いくら普通と呼ばれる形式とは異なっていても、結婚だなんて緊張して当たり前だ。
そう、だから気のせい。
そう言って笑った母様こそ、本当はそう思っていないように見えるなんて。
「もちろん、恭一郎殿も私の大事な子ですけれどね。万が一のことがあれば言いなさい。狐に頼んで、どうにか貴女を連れ戻してもらうから」
何かを誤魔化したかったのか、涙ぐんだ娘を見ていられなかったのか。
また笑って、本気とも取れる冗談を言ってみせた。