明日、雪うさぎが泣いたら
「皆して、似たようなことを言うんですね。もしかして、この家は狐に縁があるんですか?」
湿っぽくなりたくなくて、私も冗談混じりに尋ねてみる。
「さあ、どうかしら。でも、不思議なことはいつの世も起こるものです。それを願ったり、恐れたり、崇めたりね」
特に意味のない問いかけだったのに、どこかはぐらかされたようで途端に気になり始めた。
確かに、動物を守り神として奉ることはそう珍しくもないことだけれど。
「ほら、早く休みなさい。いくら貴女だって、こんな時くらいは気疲れもあるでしょうからね」
「いくら大雪だって、緊張くらいしますよ。……おやすみなさい、母様」
いつもはっきりとものを言う母様らしくなく、敢えて答えになっていない返事をされたようで。
もう一度尋ね直したい衝動に駆られたが、それ以上訊くことはできなかった。
「おやすみ、小雪」
(母様……お元気で)
退出する間際、そんな言葉が頭に浮かんですぐさま取り消した。
もちろん本心ではあるけれど、そう言ってしまえば、まるで今生の別れみたいではないか。
少なくとも、会おうと思えばすぐに会える距離には相応しくないはず。
だから、振り返らない。
その必要はない。
なぜか泣きたくなるのをどうにか抑え込み、部屋を後にした。