明日、雪うさぎが泣いたら
・・・
別の邸に移り住むとなると、準備だけでもそれなりに大変だと思っていたけれども。
『必要最低限のものは、こちらで用意させる。とは言え、昔ならともかく今のお前の好みはよく分からないからな。欲しいものがあれば、その都度手に入れるから遠慮なく言え』
気を遣ってそう恭一郎様もそう言ってくれたが、同じ年頃の姫君と比べると物は少ない方ではないだろうか。
それに、強請るようなものも特にない。
長閑と雪狐が一緒に来てくれる。それで十分だ。
「小雪? 大丈夫? 」
だから、いざ恭一郎の邸に到着して既に整えられた部屋にいると、手持ち無沙汰からかぼんやりしてしまったようだ。
「あ、別に何でもないの。ちょっと、ぼうっとしちゃっただけ」
なおも、心配そうに見つめたままの長閑に笑ってみせる。
そういう長閑の方こそ心配だ。
まさかここの人たちが嫌がらせをするとは思えないけれど、果たして歓迎されているかというとよく分からない。
(早く、一彰が来てくれたらいいな)
何だかんだ言って、一彰は頼りになる。
それが長閑のことなら尚更だ。
他の邸の人たちの前では、どうにか普通の可愛いキツネを装おうとしている雪狐を抱き上げ、その二又の尻尾を隠してあげた。
ともかく、そんなわけで引っ越し作業も終わり。
ふと息を吐いたのを見計らったように、恭一郎様が顔を出した。
「ようこそ、小雪」
にこやかに言われたその台詞は、とてもこの状況にそぐわない。
なぜなら、恭一郎様はわざわざ私を生家まで迎えに来たのだ。
そして、間違いなく自分の邸に私が入ったのを見届けてから、先程の台詞を吐いたのである。