明日、雪うさぎが泣いたら
私は、どれだけ信用がないんだろう。
邸内で待って、出迎えてからそう言ってくれてよかったのに。
「お前には散々やられているからな。言っただろう? 兄である頃の記憶が、なかなか消えてくれずに困っていると」
その通りなので、何も言うことはできない。
せめて表情で不満を表すと、したり顔でそう言われてしまった。
《姫を信じられないのではなく、医師殿は万が一にも手離したくないのですよ。本人の申告どおり、最早病ですから》
恭一郎様の登場に、いつの間にか控えていた人たちも捌け。
他に人がいないのを確めると、雪狐はまるで嫌がらせのように二つの尾っぽをゆさゆさと揺らしてみせる。
「言っておくが、お前の同行は最後の最後まで渋っていた。追い出されぬよう、言動には気をつけることだな、狐」
恭一郎様の言う「狐」に言動云々を語る時点で、全然渋ってはいないのだと思うのだが。
雪狐を追い出されるのは真似だけでも嫌だし、真面目な顔してそんなことを言う彼の言動こそ面白いので何も言わずにおく。
ともあれ、雪狐の同行はもちろん私の出した条件に含まれていた。
恭一郎様よりも、むしろ雪狐が承諾してくれるかの方が不安だったのだけれど、雪狐は快くついて来てくれたのだ。
《ご心配には及びませぬ。しばらくは、ただの愛らしい狐でおりますから》
「ただの」は無視するとして、私にとって雪狐は不思議だけれど、可愛いキツネさんだ。
何だか引っ掛かる言い回しに細い目を覗き込んでみたが、雪狐は宣言どおりただ可愛く小首を傾げるだけだ。