明日、雪うさぎが泣いたら


「それほど大きな邸でもないが、好きに使ってくれて構わない。(きた)(かた)と言わず、な」


雪狐の相手は諦めたのか、今度はこちらに飛び火した。
意地悪だとムッとした私に、恭一郎様は笑って首を振る。


「お前しかいない。……そういうことだ」


不器用で一途。
他に部屋はあれど、愛人も第二夫人も彼の概念にはないのだと。

軽薄だけれど華やかではある世界に身を投じることもできるのに――そうはしないで、想い続けてきた相手が私。
どうして、そこまで私に執着してくれるのか訊きたくても訊けない。


「特に希望がなければ、このままゆっくりしてくれ」

「はい。あの……」


執着――そう、執着だ。
好きなものは囲っておきたいと、堂々と宣言した人である。
だから、部屋に通された時、正直とても驚いた。


「何だ。何か足りないものでも? 」

「いえ、その……ですね」


私の目が彷徨う理由に、長閑はピンときたらしい。というより、彼女も同じ考えだったのだと思う。


「だから、遠慮するなと言っただろう。……お前がそんなふうだと落ち着かない」


妹ではないと自分から口にしたとはいえ、経験したことのない様子をみると対処に困るのかもしれない。
珍しく強い言葉を遣った後、訳が思い当たったと悪い表情を浮かべている。


「なるほど、そういうことか。姫がお望みなら、もっと私に都合のいい部屋を用意するが」


(……そういうことです。それにしても、悪い顔……!! )


やはり、長閑も同感だったのだ。
矛先が向かないよう、ひたすら真っ直ぐ下を見つめている。
つまり、離れとは物も言い様の、鬱蒼としていて陽も差さず、助けを求めようにも人も寄りつかないような。
勝手に、そんな場所を想像してしたのだ、私は。





< 125 / 186 >

この作品をシェア

pagetop