明日、雪うさぎが泣いたら
いないと思っていた人の声が聞こえ、皆ギクリとし振り返る。
「今更、責めてもどうにもならない。だが……」
震えながらも、けして主から目を逸らさない彼に胸を打たれる。
そんなことは、承知のうえだと言うようで。
「見てのとおり、私は意外と想われているのだ。だから、これ以上は泣かさないでくれ」
罰だとばかりに、つんと突かれた額を押さえ、痛みがないことが余計に堪えたのか脱兎のように走り去ってしまった。
「ちっ、泣きたいのはこっちだぞ」
苛立たしそうに吐き捨て、一彰がそっぽを向く。
実は、この中で一番温厚かもしれない彼が子供相手にあれほど怒ったのはきっと――その言葉が本心だからに違いない。
「馬鹿、ここで今お前が真っ先に泣いてどうする。……まだ、その時ではない」
「そんなことは分かってる……! お前な、いつもはああだこうだと口が回るくせに、何だよ。こういう時くらい、“そんなことない”くらい言ってみせろよな。くそ……っ」
怒りの遣り場を探す一彰と、まだ何のことだか分からずに、ただ不安に押し潰されそうな長閑。それから、未だに涙の止まる気配すらない私を見て、どうにも収拾がつかない状況だと、恭一郎様が深く息を吐いた。
「……ともかく、上がろう。説明する」
「そうしろ。……お前は小雪と話せ。長閑には俺から話す。長閑もそれでいいか? 」
こくんと頷く長閑に、悲しそうに笑む一彰の様子に胸が痛む。
こればかりは、彼にだって長閑を安心させてはあげられない。
そう分かっていて伝えるのは、どんなに辛いだろう。