明日、雪うさぎが泣いたら
「小雪……!! 」
女性の部屋に入るには、あまりに乱暴だったかもしれない。
だが、それは要らぬ心配だ。
部屋のどこを見回しても、思った通り小雪の姿はなく。
怯えてみせてくれたのは、もともとこの邸にいた者だけで、長閑は無表情に座ったままだ。
「……狐もいないな。どこへ行った? 」
「……っ、申し訳ありません。でも、私は再三お止めして……」
謝罪が聞きたいのではない。
小雪はたまたま席を外していて、すぐに戻ってくる――そう言ってほしいだけだ。
「既にご存じなのではありませんか。だから、そうして必死に探していらっしゃる。……ここでそうお尋ねになるのは、時間の無駄です」
長閑にしては低く、抑揚のない声だ。
無礼だと声を上げそうな女に手で不要だと告げ、長閑の目を見つめたが、彼女はけして怯まなかった。
いつからか、自分に対して一歩下がってしまうことも増えたもう一人の妹を、残念に思うことも多かった。
だが、今の彼女はどうだ。
引くどころか、寧ろ詰め寄るくらいの覚悟すら感じる。
「なぜ……」
「止められるわけがありませんわ。いいえ、あの子を止められる人間こそ、どうかしている。だって、恭一郎様。小雪は貴方を救いたくて飛び出して行ったのですもの」
どちらが主を軽んじているのだと、長閑は暗に、しかし分かりやすく皮肉ると側の女はぐっと詰まっている。
「私が車を用意させました。そうでもしないと、小雪は自分の足でも、無理なら這ってでもそこへ行ってしまいます。一縷の望みというにも足りない、僅かなものを求めて」
長閑が正しいのだ。
そのとおり、小雪なら這いつくばってでもその場所へ向かうだろう。
自惚れを承知で言うなら、大切に想ってくれるこの男の為に。