明日、雪うさぎが泣いたら
どこまでも甘いのは分かる。
でも、少し経ってから、話の内容に首を傾げた。
そういえば、先程からの恭一郎様の話は、疑問に感じる表現が多々あった。
今やっと、私はその中身の半分も理解していないこと、まだ知らない何かがあることに気づきながらも、何と切り出していいのか分からない。
「恭一郎様……? 」
意を決して、真下からその瞳を覗き込む。
目を逸らしはしないでくれたけれど、眩しそうに見るばかりで返事はない。
「……兄様……? 」
それなら、これでどうだ。
苦肉の策でそう呼んでみたが、今更そうして呼ぶのかと軽く頭を小突かれた。
「……え……? 」
少なくともこの場では、そのどちらも不正解だと、やはり返事はしてくれなかった。
ますます混乱する私に小さく笑って、コツンと何かを私の頭の上に置く。
(……これは……)
彼の手元はまだ頭上にあって、それが何であるかは私からは見えない。
でも、この感触は確かに覚えている。
実際に髪に当てたのは随分昔のことだけれど、つい最近私はこれを髪に着けてははしゃいで……落としてしまったばかりだ。
「あれほど憎いと思ったのに、私は未だにしがみついて……捨てられなかった」
――バレッタ。
まさか本当に、捨てずに取っていてくれただなんて。
恭一郎様だって、すべて燃やしたと言っていた。
それが嘘だったことよりも、どうして今それを明かす必要が――。
「今のお前には、少し子供っぽいかもしれないが。やはり、似合うな。……どちらの世界のものも、お前には」
その台詞は、聞き覚えがあった。
でも、夢を通して蘇った記憶では、それを言ったのは。
「……さゆ」
声が掠れただけだ。
だから、語尾が消えたのだ。
そうでなければ、吐息とともに呼ばれたから、私の耳には届かなかっただけ。
腫れっぱなしの瞼に触れ、充血した目を見て困り顔で微笑む。
それはもう、兄様ではなく恭一郎様でしかないと、私の目には映っているのに。
もっとよく見ろと言うように、上向かされた。
「……本当に、雪うさぎみたいだ」