明日、雪うさぎが泣いたら
「病人扱いするな。男扱いされて舞い上がっている気分が台無しになる」
離れた距離以上にぐっと引き寄せられ、こつんと頭が胸にぶつかる。
「……とても、捨てられなかった」
思わず頭に触れ、また落としたのかと慌てる私に笑い、それが乗せられた掌を広げてみせてくれた。
やはり、その髪飾りは今の私にはとても珍しい。
これは、私がもともと持っていたものだろうか。
あの夢の男の子は、どちらも似合うと言ってくれたけれど。
あの子からの贈り物は何も手元に残ってはいないが、大人になってからは恭一郎様にこういった装飾品を取り上げられた記憶はない。
「これは、私が持ってきたものですか? 」
その問いかけの意味を探っているのだろうか。
どこか一点を見つめた目が、少し間をおいてこちらを向き、やがて愛しそうに細められた。
「……いや。これは、本当に……」
そこで言い淀んだのを往生際が悪いと笑って、覚悟を決めたように私を見据えて言った。
「……私が贈ったものだ」
『さゆ』
聞き間違いでも、語尾が掠れたのでもなかった。
恭一郎様は確かに、私をそう呼んだのだ。
「こんなもの、見るのも嫌だったのに。私は拾ったまま捨てきれず、今の今まで仕舞っておいた。残念ながら、お前の予想とは違っていたな」
私に顔を上げさせたのは、もう逃げられない真実を語ってくれているからだ。
それは、つまり。
「お前が昔出逢った、異世界の少年は……私だ」