明日、雪うさぎが泣いたら

「それにしても、もったいないな。お前は我が妹ながら、意外と愛らしいと思うのに。逢瀬がこんな真っ昼間、あんな色気も雰囲気もない場所で、挙句の果てに相手が私か。それこそ、呪われているんじゃないか」

突っ込みどころがありすぎて、どれからいこうかと口を開き、やや間が生まれてしまった。

「……褒め言葉じゃないですよね、それ」

「妹だからな。つい、甘くみてしまうのだ」

なのに、一番言いたいことは言えなかった。
そんな気持ちを知るはずもない兄様は、まるで悪戯が成功した少年みたいに楽しげだ。

「行こうか。着ぶくれて、可愛くなったお前を連れて行かぬわけにはいかないだろう」

意地悪を言ってくれてよかった。
拗ねているのではなく、兄の欲目ながら愛らしいと言われて照れていることがばれずに済む。

外に出ると、シャリシャリと足下で砂利が鳴った。
敷地内とはいえ、部屋から出て地面を踏んでいるのだと思うと胸が踊る。
すうっと肺に広がっていく冷たい空気が、いつもの小さな世界から一歩抜け出したのが現実だと知らせてくれた。

「兄様はいいなあ。こうして歩いていても、誰にも見咎められなくて」

「そうでもないぞ。お前をあそこに連れて行くと母上に言ったら、散々小言を食らった」

その言葉に嘘も誇張もなさそうだ。
事前に申し出ればそうなることは分かっていただろうにと、首を傾げる私に兄様の目尻が下がる。





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