明日、雪うさぎが泣いたら
「恩義ある人の愛姫を連れ出すのだからな。黙っているわけにはいかない。私は、人攫いにはなりたくない」
その台詞のすべてに同意できない。
兄様が私といるのを「浚う」などと表現できるはずもないし、それに。
「兄様、それは……」
「晴れてよかったな」
足が止まらずに済んでいるのが不思議なくらい、ぎゅっと唇を噛んだ。
今、絶対にわざと不自然に話題を変えた。
つまり、もうそこに触れるなということだ。
なら、これならばどうだ。
「兄様。もしも私がまた消えてしまったって、兄様は何も悪くないわ。私が望んだことで、兄様は仕方なく付き合ったんだもの。ここからいなくなっただけで、死んでしまったとは限らないし。どこかで幸せになったと思ったって」
「小雪」
今度こそ、足が止まる。
鋭く呼ばれて、全身が固まってしまったみたいに動かない。
「もしも、あれがただの夢ではなく、お前を連れ去ってしまう邪悪な存在だとしたら。私はその者を絶対に許さぬ。たとえ、お前が言うようにそれが優しいのだとして、ただお前といたいだけなのだとしてもだ。そんなものが本当に存在するなら、私はどうにか、お前がまたいなくなる前に」
――必ず、殺してみせる。