明日、雪うさぎが泣いたら
「そうする必要があるのか、確かめたいのだ。でなければ、お前を連れてくるものか。それも、かなり危険だと思って実行はしたくなかった」
大切に思ってくれてるのだ。
一彰と二人、私を発見した時の兄様は、酷く自分を責めていたと聞いた。
混乱している兄様の様子など、今の私は想像できない。
いつだって穏やかで優しく、時に意地悪も怖いことも言うけれど、私にとっても大切な人だ。
「ほら」
枯れ葉や湿った土の匂い。
足下が悪くなると、何もなかったように手を差し伸べてくれた。
「嫌な気分だ。まるで、お前を生け贄に差し出しに行くような」
「もう」
冗談ぽく笑ったけれど、相当不本意なのだろう。
何度も話を変えては、そこに戻ってくる。
花を見るには、まだかなり早い。
それでも整えられた庭から、鬱蒼とした小さな森に視界が変わりゆくにつれ、記憶も昔に戻っているのかもしれない。
「あ……」
それから少し歩くだけで、もうそれは見えた。
どんぐりの木。
「まだあるんですね。それに変わってない」
急に目の前に木の幹が現れて、驚いて見上げる。
あの時よりも小さく見える、なんてことはなくて。
今こうして顔を上げても、やはり大きい。
もしかして、私がちっとも成長していないせいなのかもしれないけれど。