明日、雪うさぎが泣いたら
「……一彰は嫌なんだな、どうあっても」
「嫌です。第一、一彰の想い人は兄様も知っているじゃないですか」
万が一にも承諾するようなことがあれば、私は友人を二人も失うことになる。
でも、兄様はまた、急になぜ念を押すのだろう。
即座に返事をしてから、嫌な予感が後からわいてきた。
「仮に、誰かを寄越しても無駄なのたろうな」
「そうですね。よく知りもしない相手なんて」
勝手に通われて、気がついたら結ばれているなんて絶対に嫌だ。
どんな方なのか知ったうえで進みたいし、私のことだってちゃんと見て知って――愛されたいのだ。
それって、そんなにも難しいことなのだろうか。
「なら、他にどうしようもない。見る限り、他のどの案より見込みはありそうだ。自惚れでなければ」
「え?」
捕まえたままの手を自ら睨み、少し言い淀んだ後とんでもない一言がいつしか光の消えた静寂の庭を貫いた。
――私が、お前を娶る。反論は聞かない。
何も考えられない。
ただ、暗い裏庭で見つけた、懐かしい南天の赤色をぼんやりと眺めるだけで精一杯だ。
「……聞こえなかったか。それとも、お前には意味が理解できないほど、あり得ないことか。まあ、そうだろうな」
くっと喉の奥で笑ったのは、本当に兄様なのだろうか。
「だとしても、生憎と私は本気だ。結局のところ、“兄様”は存在せず……いたのは兄にはなりきれなかったただの男だ。悪かったな、小雪」
まるで、幼い子供にいいこいいこをするように頭を撫でられる。
「……どうして、あにさ」
芝居がかった口調も仕草も、愛情と言うよりは私をわざと怒らせようとしているのだと分かる。
分からないのは、なぜ、どうして――……。
質問もその呼び方も受け付けないと、唇の隙間を埋めるように指が這うのを、ただぼんやりと感じていた。