明日、雪うさぎが泣いたら
帳が上がり、のそのそと寝台から降りてみると、侍女が長閑に耳打ちしているのが見えた。
何事だろう、なんてもう思うことはない。
これはもはや日課となっていて――長閑は気を遣って私に断りを入れることすら省いてくれているのだ。
恭一郎様からの文。
「あら。小雪が自分から鏡を見るなんて珍しいのね。一彰ではないけれど、今日は大雪が降るかしら」
こそこそ話には気がついていませんよと、目についた筥を開ける。
中身に合わせて八角形に作られたそれは、花弁のようで美しい反面どこか呪いめいていて、昔から何となく苦手。
「そうだわ。この機会にお化粧もしましょ! これを逃したら、いつになるか分からないもの」
長閑が嬉々として鏡台の準備を始める。
《それはいい。きっと良い気分転換になりますよ。何より、姫の更に美しい姿を見られるのは私も楽しみですから》
雪狐も気を利かせて、そう盛り上げてくれた。
(そうね、たまには)
少し大袈裟にはしゃいでみせてくれる二人を見ると、それもいいかと思えてきた。
少なくとも、医師殿を連想させる薬湯よりは、ずっと効き目があるように思う。