明日、雪うさぎが泣いたら
「恋愛しろとは言わないけれど、身だしなみを整えるのは別の話よ。ねえ、この部屋にも化粧箱があるのを知っていて? 」
(知ってますよーだ)
のしのしと這いつくばって物置きまで。
目的の物を抱えて戻ってくる私に、雪狐は頭を抱えている。
《……雪兎の君……》
もふもふが小さな手で頭を抱えているなんて、愛らしい以外に何があるだろう。
いや、もちろん恥ずかしいけれども――言い訳するなら、やはり、何だかくらくらする。
《失礼を。見てはいけない姿を見てしまった私が悪いのです。ええ、忘れてしまえば、鏡を見て支度をする姫は可愛らしい。長閑殿の言うように、元々は艶やかな御髪ですからね》
「忘れてくれてありがと。……でも、そっか。私、髪伸ばしてたのよね」
この国では当たり前のことを改めて言われ、二人とも首を傾げている。
子供や尼僧以外で、短髪の女人はそういないだろう。
《……? 私は姫の尼削ぎ姿も可愛らしくて好きでしたが》
今なら、皆同じ髪型をしなくてもと思うけれど、こうして私も長い髪をしているのだから何も言えない。
ただ、あの頃はどうしても早く髪を伸ばしたかった。
「髪飾りを着けたかったの。あの子が贈ってくれた髪飾りはすごく可愛くて、ちょっと変わっていて……」
(……あれ……?)
そこまで考えて、鏡の中の自分を覗き込む。
確かに綺麗で、可愛かった。
見たことないような、何だか不思議な髪飾り。
それは、どんな形をしていた? 色は? 装飾はどんな?
――何も、思い出せない。