明日、雪うさぎが泣いたら
着物が濡れるのなんて、気にもならない。
嬉々としてそこへしゃがみこむ私に、恭一郎様が声に出して笑った。
「懐かしいな。あの頃のお前はまだ小さくて、何度やっても上手く丸められなかった」
小さな手を補おうと、どうにか精一杯広げてみるのだけれど、そうすると指の隙間から柔らかな雪は溶け落ちてしまう。
慌ててぎゅっと雪を握っても、とても兎にはなり得ないような代物だ。
「今なら大丈夫ですよ。成長したから」
「普通は、成長したら作らなくなるものだがな」
言葉とは違い、隣にしゃがんでせっせと雪玉を丸める大人の男性の図に吹き出してしまう。
「笑うな。こっちは、姫の印象を少しでも良くしようと必死なのだからな。……ほら」
面白くもないだろうに、この寒い中おかしな我儘に付き合ってくれる。
こんなに近くにいて、心地よく感じるのはいつぶりだろう。
ううん、こういうのは初めてかも。
「あ、早すぎますよ」
手は冷たさでじんじんするくらいなのに、どこかがほんのりと温かい気がする。
そんなことを考えた私も、同じく照れ隠しにそう不平を言ってみせた。
「私も成長したからな。……やはり、お前のうさぎの方が小さいな」
(……そっか)
手が大きくなったのは、私だけじゃない。
あの頃も、自分よりずっと大きく感じられて、いつも手を引かれては包まれ、頼りきっていたけれど。
昔よりも大柄で、でも真ん丸と可愛らしい雪うさぎを作ることだって、今のこの手ならあっという間だ。