明日、雪うさぎが泣いたら
「あ……」
躊躇うことなく立ち上がるのを見て、唇の隙間から音が漏れた。
声とも言えない、酷く小さな音だったのに、恭一郎様はしっかりと拾ったらしい。
嬉しそうに笑って、近くの小枝に手を伸ばした。
「まさか、想い人の為に手折るのが枯れかけた葉っぱとはな。……折ってもないな。葉を摘み取っただけという方が正しいか」
「……嬉しいですよ」
ぶつぶつと文句を言いながら、うさぎの耳用に葉っぱを二枚用意してくれた。
「やはり、目がないと寂しいな」
おかげで、私の作ったうさぎにも耳が生えた。
出来上がった雪うさぎは、確かに赤い目がない分色味に欠けるかもしれない。
――でも。
「私は嬉しいです。一緒に作れて。子供みたいな我儘に付き合ってくださって」
この雪うさぎは泣かない。
泣くのを必死に堪えて、目を真っ赤にすることもない。
それは、逆に憐れだろうか。
泣かないのではなく、泣けないだけで、胸は張り裂けそうだったりするのだろうか。
でも、もしかして、本当にもしかしたら……嬉しくて嬉しくて、にこにこしていたりするのかもしれない。
できるだけ長く、うさぎにそのままの形でいてほしくて、せっかく作ったその子に触れるのを躊躇う。それくらい、この不完全な雪うさぎが愛しい。
「お前は変なところで引っ込むな。これまでのことと比べたら、我儘のうちには入らない」
仰るとおり。
言い返す言葉も、言い返そうという思いすらない。
そんな私に笑って、私の悴んだ手を自分の袖の内に仕舞ってくれた。