明日、雪うさぎが泣いたら
・・・
「落ち着いてください、恭一郎様!! 」
夢をつんざくような、長閑の悲鳴で飛び起きた。
いつの間に拭ったのだろう。夢の中の小さな私と同じように目元が濡れていたようだけれど、そんなの構ってなんかいられない。
「これが落ち着いていられるか……! 」
(何事……!? )
姫君の寝室は面倒くさい。
障害物に溢れた部屋を掻き分け、騒ぎのもとへと急ぐ。
「長閑、どうしたの……!? 恭一郎さ……」
まさか、この前みたいに謂れのない咎めを受けているのなら、絶対に許さない――そう決心して声を荒らげていた張本人をきっと睨むと。
《そう取り乱すことでもありますまい。私は姫をお慰めしていただけですよ》
「馬鹿なことを言うな。狐の分際であのような慰め方をすると……? 」
――恭一郎様がしたり顔の狐さんを見下ろし、ぷるぷると怒りを堪えている。
《馬鹿はそちらでしょう、医師殿。狐だからこそ、姫の涙を舌で掬っていただけのこと。犬猫と同じですよ。獣相手に嫉妬して、怒鳴り散らす医師殿の方がどうかしている》
(……あ)
涙を拭いてくれたのは雪狐だったのか。
雪狐が犬や猫と同じかはさておき、恭一郎様が怒り狂うような理由ではなかったのは確かだ。
《おや、おはようございます。雪兎の君。申し訳ありません、起こしてしまいましたね。……ん……頬が赤いようですが、お加減は? 》
でも、どうしたって気恥ずかしい。
雪狐がいくら自分をただの狐だと主張したって、こうして会話もできるし、態度が大人の男性そのものなのだ。
せめて、この前の童くらいに見えたなら、こうも照れずに済んだのに。