明日、雪うさぎが泣いたら



起き抜けに見たものと、今吐かれたばかりの甘いんだか何だか分からない台詞が、すごい勢いで私の頭を混乱させる。


「身勝手な心配なのは分かっている。だが、もうずっと治らないままだし、やめるつもりもない。今となっては、近く実現させたいと思うしな」


(そんな、宣言すること!? )


《……確かに、病んでいますね。それも仰るとおり、とても重くて治らないようで》


少し見上げた先にあるのは、寝ぼけ眼には眩しいくらいの笑顔だ。……くらくらする。


「……えっと。何かご用なのでは? 」

《そうですよ。しかし、姫の身支度前に押し掛けるとは。男として意識してほしいのであれば、もう少し態度を改めてはどうです? 》


雪狐は抗議してくれたが、そう言われると恥ずかしくなるのは私の方だ。


(……しまった)


私にはまだ面倒だと思えても、この部屋には通常よりも姫君の隠れ場所というものがない。
いつも用なしと決めつけられている几帳が、それ見たことかと部屋の隅でふんぞり返っている。


「ああ、いや。昨日は言いそびれたと思ってな。私の使いで来た童がいただろう。お前なら、咎めることはないだろうと思ってはいたが……ありがとう」

「そんな。咎める理由がどこにもありません。それより、ずっと外で私を待ってくれていて。大丈夫でしょうか? 」


次に会うことがあれば、もっと仲良くなれたらいいのだけれど。


「あいつも同じことを言っていた。自分のせいで姫が風邪でも引いたら、どう詫びればいいかと。雪の精にそんな心配は要らないと伝えておいた」

「とても慕われているんですね」


私の心配もしてくれたのだろうが、主の想い人に何かあればと気掛かりなのだろう。
ううん。主人というより、年の離れた兄弟みたいで何だか懐かしく、少し羨ましい。


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