魔界の華は夜に咲く
「アルヴァン様!!」

「ご無事ですか!?」


遠くからアルヴァンの配下が数人駆けてきた。

遠くまで炎が上がり異変に気がついたのだった。

アルヴァンは冷静に指示を出す。


「その者達に息があるか確認しろ。もしあれば拘束し、独房へ入れておけ」

「御意!」


その瞳は真っ直ぐ前を向いていた。

決して感情的ではなかった。いつも通りの仕事の様にこなした。

1人の部下にセレーンを任せる。

家族を。


「離れの方に娘と侍女の亡骸がある。それも頼む」

「ははっ!」

「急いで炎を消せ。全体に広がっては厄介だ」


アルヴァンの静かな炎が灯っている瞳をセンジュはジッと見つめた。


_これがアルヴァンさん・・いつものアルヴァンさんなんだね。家族が死んでも、涙も流せないんだ。



センジュは状況に追いつけずその場で固まった。

ぶるぶると体の震えは止まらなかった。

恐怖と悲しみが支配していた。


「センジュ」


それをアルヴァンはすぐに察した。


「すまなかったな。恐らく俺の妻に・・お前を狙う誰かの命令で奴らは近づいたのだろう」


「私を・・」


「ああ、だが、はっきりしたな。近くに裏四大魔将と繋がっている者がいる。俺の妻の内情につけ込む事が出来るということは、そういう事になる」


「・・・」


不安げにうつ向いたセンジュの頭を、アルヴァンは大きな手で撫でた。


「案ずるな。今回はこの程度の被害で済んだ」


「この程度って・・リディちゃんと奥さんが死んじゃったんですよ!?・・私のせいって事じゃないですか!」


「違う」


「違いません!私がここに来たから・・リディちゃんは・・っ」


リディはつい先ほどまで、屈託のない笑顔を見せてくれていたのだ。

一緒に遊んでいたのだ。


「ごめんなさい・・アルヴァンさん・・私・・う・・ぐすっ・・ごめんなさい」


「違うと言ってるだろうが」


「違わない・・違わないです・・うぅ」


ボロボロと涙が零れ落ちた。

その泣き顔を庇う様にアルヴァンはセンジュを抱きしめた。


「落ち着け。決してお前のせいではない。決して・・」













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