天魔の華は夜に咲く
フォルノスの後ろをセンジュはうつ向きながら歩く。

それを察していたフォルノスは無言で部屋へと続く廊下を歩いた。

部屋に着き、ドアを開ける。


「入れ。晩餐までここで大人しくしていろ」


「はい」


「・・らしくないな。どうした?言いたい事があるなら言え」


嫌味の様な口調でフォルノスは挑発した。

センジュは自分を嫌っていると理解している。


センジュはうつ向いたまま黙っていたが、ようやく顔を上げた。


「私に何か力があれば・・状況は変わっていたのかなって思って」


「は、何を言い出すかと思えば」


「何も出来なかった・・ただ怯えてただけで・・迷惑をかけて」


「迷惑だと思っているのなら、なんとかしろ。今日も力を出せなかったんだろう」


「だって・・どうやったらいいのか全然わからないよ。セヴィオやアルヴァンさんの真似をしたって何も出てこないし」


「他人の真似をしても駄目だ」


「え・・」


「お前にはお前しかない力が備わっている。他の仲間もそうだ。一人一人能力は違う」


_確かに・・セヴィオは炎を使ってたし、アルヴァンさんは雷だった。


「お前にはお前の力がある・・と信じている」


『信じている』の言葉だけがやけに心に響いた。


「まあ、人間とのハーフだ。期待はしないでおくが」


「ん・・」


「だが、可能性を信じている。諦めるな」


ドキン


前向きな言葉が胸に真っ直ぐ刺さった。

決して表情を変える事なく、冷めた目をしているフォルノスから出た言葉にセンジュは素直に頷いた。


「なんの力も無くても、今よりちょっとだけでも強くなりたい」


「そう言えるようになっただけマシだな」


「そうだね・・そうかもしれない」


やけに素直な態度にフォルノスの眼は少し丸くなった。驚いているらしい。


「ようやくスタートラインに立ったな」


「え・・そう、なの?」


「そうだ」


ふわり。

とフォルノスは軽やかにセンジュを抱き寄せた。


「えっ・・え?」


あり得ない状況に戸惑う。

自分は嫌われていると思っているからだ。

万が一にも抱き寄せられるなんて思いもよらない。


「俺がお前の力を叩き起こしてやる」


「あ・・あの?」


「お前が望むならな」


そう言ってフォルノスは消えていった。

センジュは近くにあったソファでずり落ちた。



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