魔界の華は夜に咲く
城に戻り、すぐにフォルノスの手当てに入った。

センジュの部屋だ。2人はソファーに座っている。

「御用があればお声がけください。夕食のご用意を致します」

「ありがとう」

リアに救急箱を頼み、応急処置をした包帯を取る。

思わずゴクリと喉を鳴らすセンジュ。

大きな斧を素手で受け取っていたのだ。


「・・・」

「慣れてないならいい。時間の無駄だ」

「ううん、出来るから・・やらせて」


ゆっくりと包帯を剥がし、清潔な水で洗い流した。

手のひらが大きく切れている。

「雑菌が入ったら大変だね・・」

「軽いモノなら分解出来る。平気だ」

「え・・フォルノスって・・凄いね」

「何がだ」

「ううん、なんでもない」


_そうだよ。そもそも人間じゃないんだから。私なんかが知らない力が備わってるんだ。何時まで経ってもついて行けないな。この世界の事。


ガーゼを当て、包帯を巻いた。


「今日は、本当にありがとう」

「・・仕事の内だ」


嫌味をいう事なくフォルノスは頷いた。


「私って本当にちっぽけだった。フォルノスが平手してくれなかったら気がつかなかった」

「気がついたのならいいだろ」

「それは結果でしょ」

「結果でいいだろうが」

「そういう事じゃなくてさ・・」

「何も知らない人間が、初めから上手く出来るわけが無い。そんな事はわかっている」

「う、うん・・」

「だからお前は学ぶんだ。毎日な」


_ずっと、そういう目で見てくれてたのかな、もしかして。私、誤解してたのかな?
ただ嫌われていた訳じゃなかった?


ジッとフォルノスを見つめると、フォルノスは同じ様に見つめ返した。


「は・・」


_見つめ合っちゃった・・ヤバ。


ドキン

目を逸らすと、フォルノスの指がセンジュの唇に触れた。


「な、なに・・」


「切れている。噛み締めてただろ」

「あ・・」


ほわほわと唇の辺りが温かい。

フォルノスの力で治してくれているらしい。


「大丈夫だよ。私じゃなくて自分に力を使いなよ」


急に恥ずかしくなり、顔を横に背けた。

心臓のドクドクが収まらない。



_何?この空気・・いつもと違って・・



「お前の為じゃない」

「え・・?」

「俺がこうしたいから治している」

「な・・んっ・・・フォル・・んっ」


フォルノスの唇がセンジュの唇を捕らえた。


「や・・っ・・」

抵抗すると、するりと舌が口の中に入った。

「ふ・・あっ」

舌を上下に弄ばれ、絡めとられる。

「ん・・ふっ・・ん」


_何?急に頭がビリビリ痺れる。腰の力が抜ける。


「はぁ・・はぁ」

「クス・・他のヤツらと練習でもしたか?妙に舌の動きが滑らかだな」

「ちが・・ふぁっ・・」


_何コレ・・何コレ!?知らない!体が・・おかしい・・熱い・・ドキドキする。


「ん・・も・・やめ・・」

「その割には体は抵抗していない。俺に身を任せている」


ぐったりとフォルノスに寄りかかってしまった。


_全然体に力が入らない。なんで!?体が変になっちゃったよ!?


フォルノスはペロりと唇を舐めとると、センジュをベッドに運んだ。

ギシ・・。

ベッドのしなる音が妙に耳につく。

目の前にフォルノスの銀の瞳が見える。


「ねえ、フォルノス・・ねえ」

「なんだ」

「おかしいから・・」

「何が・・」

「カラダが変だから・・もうやめて」

その言葉に、フォルノスはククと笑いを堪えた。


「これで正しい」

「へ・・だって」

「俺の舌が心地よかったんだろう」

「ち・・ちが・・ふぁ・・ぁっ」


何度も教え込む様にフォルノスの舌が揺らめく。

「俺も・・心地よい」


ドキン


かすれた声が耳に入り、また体がビリビリと電気が走る。


「おねが・・やだ・・」

「ククク・・これでいいと言ってるだろうが」


顔を真っ赤に染めて、今にも泣きそうなセンジュの顔は男なら誰もが理性を失うものだろう。妖艶の一言で片付く。

フォルノスでさえ冷静でいられなかった。


「才能・・だろうな。これも・・」


ちゅ・・ちゅ・・

とフォルノスの唇がセンジュの体をなぞる。

「は・・や・・やぁ・・」

「その声も、体も・・全部、手に入れたくなる」

「フォルノス・・ねえ・・やだ・・んっ」


ビクン

指先が敏感な部分に触れると、センジュの体が魚の様に跳ねた。

フォルノスも不思議に感じていた。

他の女とは別の色気をセンジュは持っている。

ただ欲望の処理をするだけの道具のハズが、まるで宝に大事に触れるように指を滑らせたいと思う。

一つ一つの反応がやけに楽しかった。もっと見たいと思った。

服をたくし上げ、露わになった乳房に舌を這わせる。

「ああっ・・や・・そこ・・やだぁ・・」

「いいの間違いだろ」

「ビリビリする・・やぁっ」

懸命に手をフォルノスの頭に押し付けて抵抗するがすぐに力が入らなくなる。

「んー・・や・・あ・・ぁ」

「クク・・お前は。ヤダヤダって。天邪鬼だな」


楽しそうに笑うフォルノスの笑顔を見つけ、急激にセンジュの心臓が高鳴った。


_え・・え・・え!?凄く楽しそうに


「フォルノスが・・笑ってる」

「・・は?笑ってないぞ」

「笑ってるよ!え!?笑ってるじゃんっ」

「どうでもいい」

「よくない!初めて・・みる・・んっ」

「まあ・・楽しいかもしれないな」


ぺろり。

「ひゃあっ」

「お前のその反応は新鮮だ。他の女とは違う」

「え!?」

「だが、今はそんな話をする必要はない」


ドキン


ドキン


ドキン



_フォルノスが笑ってる。凄く・・綺麗で・・素敵な顔だった。


初めてみたフォルノスの笑顔はあまりにも衝撃的だった。

絶対ににこやかに笑ったりしないだろうと思っていた。

自分にもだ。


「ね、お願い・・リアさんが来る」

「待たせておけばいい」

「出来ないよっ」


懸命に抵抗するセンジュの目をフォルノスはもう一度ジッと見つめた。


「今なんだ」

「え・・?」

「お前が欲しいと思ったのは」

「フォルノス・・?」

「この俺が・・今、お前を欲しいと思った」

「そんな事言われても・・や、やだよ・・だって・・・」

「なんだ?」


一気に不安が押し寄せる。

震える唇で、思いの丈を伝えた。


「だって私、嫌だ・・道具は嫌。私は・・パパとママみたいになりたい」

「・・・」

その言葉にフォルノスの動きはピタリと止まる。

そしていつもの冷静な顔に戻った。

「他の3人に、いるのか?」

「・・え?」

「お前を幸せとやらに出来るヤツが。お前が想う相手が」

「・・・」

俯き黙ったセンジュからフォルノスは離れた。


「わかった」


そう一言だけ言ってフォルノスは部屋を後にした。


_フォルノス・・凄く暗い顔してた。なんで?どういうつもりだったのか全然わからないよ。




考えても考えてもフォルノスの気持ちがわかる訳もなく、その日はモヤモヤしたまま眠りについた。
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