魔界の華は夜に咲く
「よおよお!来ないのかと思ったぜ!」

と元気よく手を振ってくれたのは元・ごろつき達のリーダーだった。

「あ、こんにちわ!」

「姫さんも来てくれたのか!この前はすまなかったな」

「いえ、こちらこそ・・」

男は炊き出しの準備をしている。

大きな鍋にぐつぐつとスープが煮えていた。

「改めて、俺はガルシアってんだ。よろしくな」

「はい!センジュです」

2人は笑顔で握手をした。

「あんたらとフォルノス様が支援してくれたおかげで大分景気が良くてな。こうやって炊き出しも出来るし、最近じゃ孤児も元気に走り回ってるし。ありがてえ」

「センジュがやりたいって手を上げたからだ。あんたのおかげだな」

「そんな事ないよ。私、お金だって持ってないし・・皆が支援してくれたから出来たんだよ」

ガルシアは豪快に笑った。


「まあ、あの冷酷で噂のフォルノス様が支援してくれるって聞いた日にゃ、驚いて暫く腰が抜けてたけどな」

「ははは。信じられねえよな」

「うんうん、怖かったな、さっきも」

クロウとコーマは震えている。


「この間、姫さんと一緒に来た時もいきなり姫さんの頬にビンタして、あの人はやっぱ普通じゃねえな」

「は!?あいつ、あんたの事殴ったのかよ!?」


それにはセヴィオが血相を変えた。

慌ててセンジュは弁解する。


「違うよアレは私がもたもたしてて・・判断を煽ってくれたの。あれが無かったら上手く行かなかったし」

「まあ、鬼教官て感じだったな。ハハハ」

「フォルノスは私に王女らしく居られる様にって色々教えてくれてたの」

「だからって・・手を上げるなんてよ」

「大丈夫だから。あの時だけだよ。それに私もフォルノス叩いちゃった事あるし」

「え!?あの人を!?すげえっすね姫様!!」

ゼンはセンジュの勇気に感動している。


「ちっ・・胸糞悪い」


セヴィオは今日一番で機嫌が悪い。さっき睨み合ったのも効いている。


_あいつ、本気の目してやがった。本気でセンジュを・・。


凍るような銀の瞳でセヴィオを威嚇してきたのだ。

セヴィオも冷静で居られない程強烈な印象だった。


「俺にとっちゃあんたら全員命の恩人だ。本当にありがとうな」

「いえ・・こちらこそありがとうございます」


子供たちがワクワクとスープを見つめている。

待ち遠しそうによだれを垂らしている小さな子もいる。


「こいつらの住処も新しく作ってくれて、服も靴もあって・・ここはどんどん変わっていく。俺もこいつらの将来の為に頑張らねえとな」

「はい、よろしくお願いします、ガルシアさん」

「ああ。今日はゆっくりしていきな」


皿にスープを盛り、子供たちに渡すと子供たちはセンジュを連れてベンチに座った。
ゼンとコーマとクロウにセンジュの護衛を頼み、セヴィオはガルシアと2人でセンジュを遠く見つめながら話した。

ガルシアは苦虫を噛み締める様な顔で言った。

「正直、まだこの街には反抗的なヤツもいる。魔王のやり方にな」

「やっぱりそうか・・最近噂の裏四大魔将ていうのがいるのを聞いた事あるか?


「ああ、きっとこの街の腐った奴と繋がってるだろうな。・・ただ誰も姿を見た事がない」


「いつ襲ってくるかもわからない。センジュは本当は住民に知られてはいけなかった。成り行きでこうなっちまったけど・・本当は連れてくるのも躊躇したんだ」

「そうだったか。そりゃ悪い事をした」

「いや、俺も浅はかだった。四大魔将を名乗っておきながら・・爪が甘かった」

自分の行いに憤りをずっと感じていたセヴィオに、ガルシアは大きな手で背中をポンと押した。


「あんたは偉い。若いのにしっかりしてる。そのまま真っ直ぐ成長すればいいだけだ。そんな顔すんな」

「・・・」

「あんまり上を見過ぎなくていいんじゃないか?あんたらしく」


ガルシアに言われてハッと思い出したのはフォルノスの顔だった。

現状では到底かなわない。だが越えたいという気持ちはずっと心に秘めたまま今までずっと見上げていたからだ。


「俺らしく・・」

「そうだ、あんたらしく姫さんを護ればいいんだ」

「そうだな・・ありがとな」

「こんな元ごろつきに言われても説得力はねえかもしれないがな」

「いや、年上の言葉には重みがあるよ」

「ふはは」


センジュが繋げた縁でセヴィオもまた少し心を救われた。

前向きになれた。


「何があっても、あいつを護る。俺に生きる意味を教えてくれたんだ」

「・・そうだったか。俺もだ」


2人が頷いていると、センジュが呼びにきた。


「セヴィオもガルシアさんも食べようよ。すっごく美味しいのこのスープ!」

「あ?ああ。美味そうだな」

「俺は元・料理人だからな。味は街一番だ」

「なんで料理人がごろつきになるんだよ」

「店が潰れたからに決まってんだろう」

「あ、そう」

「普通のリアクションだな」

「この話を楽しくさせる方が無理あるだろ」

他愛もない話で大盛り上がりした。
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