魔界の華は夜に咲く
「悪いが、俺は誰かを慰めた事がない。どうしたらいいのか分からない」

静かに言った。

その声にセンジュの心臓がまたぎゅっと掴まれた様に苦しくなる。


_この気持ち・・何?苦しい。



ドキ

見上げると、銀の瞳が光に揺れた。

宝石みたいに綺麗だ。

言葉にする事なんか出来る訳がない。

自分の今の気持ちが分からないからだ。

「うー・・」

無言でセンジュはフォルノスの胸に顔をくっつけた。

トクトクと脈打つ音が聞こえる。

生きてると思うと安心出来た。


「悲しい時は・・抱きしめて・・欲しぃ・・」


恥ずかしくて最後までちゃんと言えなかったが、フォルノスには届いていた。


「俺はベリオルロス様ではない。この俺に甘える気か」

「わ、わかってるよ!こんな事言いたくないけど、フォルノス以外の人は、私が落ち込んでたらギュッてしてくれるよ。優しいよ」

「それがお前の求めるものか。まったく」


口では馬鹿にしているそぶりだったが、フォルノスは理解した様に頷いてセンジュ
を抱きしめた。

センジュは目を閉じて耳を澄ませた。

人の温もりを感じると安心する。

心臓の音を聞くと心地よくなる。



ーフォルノスの胸に顔を埋めてる。信じられない。でも、嬉しい。
なんか、とてつもなく嬉しい。


フォルノスも不思議な感覚に陥っていた。

じっくりと女と抱き合った事などない。

新鮮な感覚だった。

静かで穏やかな時間が流れる。

お互いにしばらくそのままでいた。
< 187 / 289 >

この作品をシェア

pagetop