魔界の華は夜に咲く
部屋に入ったアルヴァンはセンジュをソファーへと座らせたが、センジュは立ち上がってアルヴァンを無理やり座らせた。

「どうした?」

「私はもう平気ですから。それよりもアルヴァンさんの傷の方が心配です」

「ああ、この程度すぐに治る。放っておいていい」

「駄目ですよ。沢山あるじゃないですか・・」


センジュには意図があった。

黙ってうつ向くと考えてしまうのだ。

ウリエルの言葉や、父の言葉を。

何かしていない方が苦痛なのだ。

救急箱を見つけると、中からガーゼを取り出した。

「手際がいいな」

「そんな事ないですよ」

「折角の施しだ。お言葉に甘えるか」

アルヴァンは上着を脱ぎ、傷だらけの腕を差し出した。

見えない部分もアザになっている。

「うわ・・中も凄いじゃないですか・・痛そう」

「痛みには慣れてる。平気だ」

「魔族の人って・・そういう所ほんと凄い」

自分で出した言葉にハッとしてしまった。

自分は魔族と天使のハーフだと主張した様に聞こえたかもしれない。

すぐにアルヴァンの様子を伺った。自分の事をどう思っているのか不安だった。


「まあ、な。魔族は打たれ強く出来ているからな」

「・・やっぱりそうなんですね」


アルヴァンの優しさだろうか。すぐに求めている答えを出してくれる。

いつもの空気じゃない事はセンジュも解っていた。

アルヴァンも何か考え事をしている様に見てとれた。

丁寧に包帯を腕に巻いていると、アルヴァンから思った事を聞いた。


「正直、驚いたが」


ドキン


それは母親が天使だという事だろう。やはり胸が痛む。


「あの方がお前を認めている以上、お前はここにいても良いだろう。思いつめるな」

その言葉に一番聞きたかったことを切り出した。


「アルヴァンさんは・・私の事を嫌いになったりしないんですか?」

「お前が半分天使でも、お前自体が変わる訳じゃないからな。急に毛嫌いはしない」

「・・・そうですか。ほっとしました」


しかしアルヴァンの目はいつもの様に柔らかくはなかった。
 

「ウリエルにそそのかされ、魔界の監視に来た・・という訳でもないかぎりな」

「え!?」


_どういう事?やっぱり私・・疑われてるの?


センジュに緊張が走る。

いつも豪快に笑ってくれるアルヴァンの瞳がとても真っ直ぐに貫いてくる。

監視されている様に見える。


「やっぱり・・それが普通ですよね」

「・・・」


センジュは落胆した。

考えていた通りになってしまったと思った。


「それが魔族にとっては普通の感覚なんですよね・・」

「何が言いたいんだ?」

「私・・ずっと嫌われたらどうしようって思って・・折角皆と仲良くなれてきたのに。嫌われたら残念・・だなって・・」


言葉が出てこなくなってしまった。

自分が何を訴えたいのか途中で分からなくなってしまった。


_最悪だ・・私。


包帯を縛ると、センジュはアルヴァンに背を向けた。


「ごめんなさい・・アルヴァンさんの目が・・今は怖いです」



_こんな事言ったって自分の思いなんか届くわけないのに。


心が真っ暗になっていく感じがする。

絶望なのかもしれない。


_なんで・・よりによって天使なの・・皆の・・敵なの・・



何も言わずアルヴァンは静かに聞いた。



「1人になりたいです。駄目ですか?」

「駄目だ」

「何もしませんから・・信じて下さい。私__」

「今、お前を信じる事は出来ない」


ズキン

冷たい言葉に胸を貫かれた。

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