魔界の華は夜に咲く
父である魔王の隣に促され、様々な視線に怯えつつも着席した。


「あ、あの・・」


挙動不審に目をきょろきょろさせていると、魔王は突如センジュを抱きしめた。


「可愛い!私のセンジュ!!」


「わっ・・ちょっ・・」


_ひえええっ!皆見てるのにいいいっ



パチパチパチ・・・

とどこからともなく拍手が聞こえてきた。


「おめでとうございます。我が君、姫君」


「おめでとうございます」


いつの間にか大勢の拍手に囲まれていた。

どうやら歓迎されているらしい。

魔王の大切な愛娘の存在に皆喜んで拍手した。


「これは・・?」


「皆この時を祝福してくれているんだよ。私はアンジュしか妃を持たなかった。離れ離れだったけど、出会ってから17年間ずっとずっとアンジュだけを愛していたんだよ」

「え・・?」


近くに着席している四大魔将達もそれには頷いている。

恐らく魔界にもそれなりに器量の良い女性は沢山存在するだろう。

四大魔将達はセンジュの存在は知らされていなかったが、アンジュの存在は知っていた様だった。

魔王は頑なに魔界で伴侶を持つ事をしなかったのだった。


「だから、そのアンジュとの間に出来たお前を魔界に迎える事が出来て・・本当に嬉しいんだ」

「・・パ・・パパ」

「ずっと一緒に暮らしたかったんだ・・私の夢だった」


_本当に?本当にこの人は私のお父さんなの?パパなの?信じて・・いいの?


未だ確信が持てていない。戸惑いつつ魔王を見つめた。
しかし、その時センジュの瞳には心から喜んでいる魔王の笑顔が映り、ほんの少し受け入れた。

「魔界からお前達の事は見守っていたよ。姿を現さない事はアンジュとの約束だったから今まで逢えなかったけど。これからは、死んでしまったアンジュがいない今、お前を護れるのは私だけだろう?」


センジュの手を握る魔王の手は大きく、とても温かかった。


「パパ・・」


「うんうん、いつもパパと呼んで。魔界で一緒に生きて行こう。センジュ」


「ぅ・・うん」


センジュは素直に頷いた。

正直人間界に未練はない。

母以外、信用していなかったからだ。


_どうなるか不安もあるけど・・とりあえず素直にここにいてみよう。今は抗っても仕方ないよね。ね?ママ。


ほろりとセンジュの頬を涙が伝った。

寂しさを示す最後の涙だった。
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