魔界の華は夜に咲く
城に戻ったセンジュは部屋に引きこもった。

誰も入れるなと初めて命令というものを下した。

リアは心配していたがフォルノスはしばらく放っておけと言って去っていった。


ベッドに横たわり、ジッと前を見つめた。


_ああ、疲れた。もう嫌だな・・。


完全に不貞腐れた。

心が荒んでいく。


_パパが何考えているか?・・知らないよそんなの。

ママは天使だった。・・・だから?何がいけないの?

フォルノスは私が嫌い。・・・解ってたよそんなの。



大きな枕を手に取り、全力で抱きしめた。


苦しい。息が出来ないくらい辛い。


「あ、これって・・失恋なのか?ハハ・・」


_そっか。仕方ないよ。ていうか、あんな人好きになるとか絶対おかしいよ。

勘違いだよきっと。



コンコンコン

と丁寧なノックが聞こえた。

すぐにエレヴォスだと思った。


「はい」

「センジュ?入ってもよろしいですか?」

「どうぞ」


エレヴォスは心配そうに中へ入ってきた。


「侍女のリアが心配していましたよ?誰も入れるなと言ったそうですね」

「あ・・すみません、ちょっと1人になりたくて」

「そうですか・・。今日の護衛はフォルノスなのですが、急用の任務を我が君から受けておりました。代わりに私が護衛させていただきますね」

「はい」


エレヴォスが入ってきてもセンジュはベッドから出ようとは思わなった。

ずっと抱きしめた枕を見つめている。


「体調がよくないのですか?」

「え、はい・・まぁ」

エレヴォスはそっと額に手を当てた。


「うん、熱はなさそうですけど」

「ちょっと・・疲れちゃって」

「そうでしたか」

いつもの優しい笑顔でエレヴォスが頷いたのを見て、センジュはお願いをした。


「あの、手を・・握ってくれませんか?」

「え?ええ、もちろん・・どうしたのですか?珍しい」

「なんか・・なんとなく・・」


_虚しくて寂しくてなんて言えないけど。


「?」


きゅっと握るとほんわかと温かいエレヴォスの温もりが伝わってきた。

思わずじんとした。


「エレヴォスさんは・・なんでいつも私に優しいんですか」

「え?」


突然に質問に戸惑うエレヴォスだ。明らかにセンジュの様子がおかし事は見て取れた。
喋り方もいつものセンジュとは違う。心が読めない感じだ。

エレヴォスは正直に答えた。


「んー・・それは私がセンジュを手に入れたいからですね」

「フフ・・直球ですね。隠さないんですね」

「そうですね。でも、事実ですから」


ニコニコしながらエレヴォスは手をセンジュの頭へと持っていった。

ゆっくりと丁寧に撫でてくれる。

心地よい。


「じゃあ・・エレヴォスさんはなんで私を手に入れたいんですか?」

「・・我が君の命令ですから。全力を出すまでですよ。他の者に負けたくありませんから」

「私の事って正直どう思いますか?面倒くさかったりしますか?」

「いいえ、あなたのその純粋で真っ直ぐな性格はとても好きですし」

「純粋・・」

「それに意欲的に魔界の事を知ろうとしているでしょう。スラムの話も感心しました。あなたも我が君の役に立ちたいのだと思うと、嬉しいですよ」

「はい・・そう思っていました」


_でも・・今はどうでもよくなってきた。魔界の事も天使との争いとかも考えたくない。
本当は人間界で普通に暮らしたい、人間として。

だけど望みは叶わないんだよね。


「どうしましました?やはり様子が少しおかしいですね」


エレヴォスがきゅっと優しく抱きしめると、センジュの体が震えた。

緊張して体が強張っている。


「私・・」


「はい?」


_もうどうでもいいって思ったのに。誰でもいいって思ったのに。

どうして震えてるんだろう。


言葉に出す事は出来なかった。

黙ったままセンジュはエレヴォスの体を強く抱きしめ返した。


「センジュ?」

「・・・」


ドクン


ドクン


ドクン



痛いほど鳴っている心臓はエレヴォスにも伝わった。

センジュは何かを決心した様に、エレヴォスの胸に顔を埋めた。


「そんな風に抱きしめられると・・本気になりますよ」


ドキン


優しく耳元で囁かれた。

息が耳をくすぐる。


「・・・」

泣き出しそうな思いを堪え、センジュはエレヴォスの顔を見つめた。

エレヴォスは笑ってはいなかった。真剣に応えた。


「苦しそうですね」

「・・・」

「私が癒してあげます」

「・・・っ・・」

「何も考えられない様にしてあげましょうか」


ゆっくりとエレヴォスの温かい唇がセンジュの唇にくっついた。


「っ・・ん・・っん・・」


すると優しい口づけをセンジュは何度も欲した。

ぽっかりと空いた穴を埋める様に。
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