魔界の華は夜に咲く
食事をしながら、センジュは父に不思議な体験を伝えた。


「そうだ、あのね、湯船に浸かってたら、ママの声が聞こえた気がしたんだけど・・」


「え?・・そうか。流石パパの子だね」


「え?」


「魔界は人間界と違って冥界に近いからね。今アンジュの魂はふわふわと彷徨い中なんだ。
きっと本物のアンジュの声だと思うよ」

「え!?本当に!?」

「心の中でアンジュを呼んだんだろう?それに応えてくれたんじゃないかな」


センジュの頭をなでなでしながら魔王は楽しそうだ。


「暫くアンジュの魂は彷徨うだろう。そして本来なら天界へ登っていく」


「天界・・」


_天国が本当にあるって事?びっくりすぎるんだけど。あ、でもここも魔界か・・。



魔王は近くのグラスに入ったワインを飲み干した。


「でもね、天界に行ったら記憶は消され、アンジュは消えてしまう」


「え?」


「だから、お前が望むなら・・その魂を魔界に連れてくるよ」


「そ、そんな事が出来るの!?」


「まあ、私に出来ない事はない」


「ママに会える・・」


「姿はないけどね。声は届くし、会話もできるだろう」


「・・凄い」


素直に感心していると、魔王はセンジュの頭をもう一度撫でた。


「凄いだろう?お前のパパは」


「・・・クス・・」


思わず笑ってしまった。


「どうした?」


「な、なんでもないです」



_魔界の王っていうから凄く威圧的で怖い存在なのかと思ってた。初めは怖かったけど。でも、なんだろう・・今は凄く優しいお父さんて感じがする。


「パパ・・」


「んー?なんだい?」


「ありがとう」


ぽろり、と感謝の言葉が出てきて自分でも驚いたが、その言葉に一番驚いたのは魔王だった。感動に打ち震えている。


「センジュ~~~!!パパと結婚するか~!!そうするか~!!」


ぎゅううううっ


「ぐえっ・・パ・・くる・・」


息が止まりそうな程激しいハグだった。


思わず四大魔将が立ち上がるほどだった。


「ベリオルロス様!!いけません!」


「姫君が圧死します!!」


「あなた様の力では一瞬でつぶれますっ」


「早く姫をこちらへ!!」


と急いで引き剝がされた。


「し・・死ぬかと思った」


「間一髪だったな。魔王様は本日は酔いが速いと見える」


冷や汗をかきながらセンジュを助けたアルヴァンが言った。


「まあ、愛娘が近くにいれば嬉しいものか。解らなくもない」


「アルヴァンさん」

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