魔界の華は夜に咲く
「お前は・・何も知らないんだ・・だから、目の前の事を真っ直ぐに受け取ろうとする」

ウリエルの顔は悲しみで歪んでいた。

「それが命取りだと・・何故、わからない」

「そうだとしても・・私は、私が信じる人を護りたいって思っちゃダメなの?」

「・・・」


ウリエルはセンジュの手を握った。

17歳と言えどまだまだか弱い小さな手だ。

悔しそうにウリエルは言った。

「そんなに、魔界は楽しかったか」

「・・・」

「そんなに・・・魔王を護りたいか」

「じゃあ、伯父さんは・・ママが敵になったら殺すの?大切な家族を簡単に殺せるの?」

「・・・いや・・出来ない」

「私だってそうだよ。パパは私の家族だよ」


センジュの言葉に、ウリエルはため息をついた。全部知っている事を洗いざらい教えようと思った。




「魔王は17年前、天界の3分の1を破壊したんだ」

「え!?」

「突然の事に天界の者は皆、奮起した。怒りは爆発し、魔界へと進軍した。・・壊された場所は居住区で、そこに住んでいた天使は訳も解らずに殺された。理由は解るはずもない」

「・・そんな」

「その戦で天界も、恐らく魔界も半数の仲間を失っただろう」

「・・・」

センジュは言葉を失った。

センジュは知っている。魔王の計り知れない力を。怒りを。


「どうして許せる・・そこには母も弟も住んでいた。仲のいい友も失った・・それを、どうやって納得しろと言うのだ」

「伯父さん・・・」


_確かにパパは怖いけど・・でも理由もなく天界を破壊するなんて思えない。そんなの信じられない。



「熾天使の命で、魔王の力を半減させる策を取った。それが・・」

「ママ・・だよね?」

「ああ、これ以上魔王に好き勝手させるわけにはいかない。この天界を護る為にな」

「だが予想外だったのはアンジュだ・・」


_パパを好きになったって事が?


「ママは何処にいるの?会えるの!?」

「ああ。しかし・・止めておいた方が良い」

「え!?」

「天界のある場所にたどり着いてしまった。もう遅いかもしれない」


_確か、パパが天界に行ったら記憶を消されるって言ってたヤツ!?


「そんな・・」

「肉体を与えられても、それはもうアンジュではない。それでも逢いたいか?」

「それは・・・」


_話をしても、私の事を知らない他人って・・事?


諦めようとしたセンジュだったが、嫌な予感がすぐに脳裏を駆け巡った。


「伯父さん・・どうしてママに肉体を与えるの?ママは新しい天使として生まれ変わるの?」

「・・・」

「記憶を消して・・魂を綺麗にして・・ママの姿で何を・・っ」


_何をする気なの!?



察してしまったセンジュに、ウリエルの顔は途方に暮れていた。

陰りのある顔だ。

「熾天使の命だ・・覆せない」

「まさか・・ママを使って・・」


_更にパパを苦しめるつもりなの?


センジュは後ずさった。


「最低だ・・あなた達・・・天使は・・全然・・美しくない・・」

「ああ、俺も・・最低だと思う」

「ならどうして反対しないの!?妹なんだよね!?また17年前と同じ、利用されてもいいの!?」

「それ以上に魔王が憎いからだ!アンジュもわかってくれる!」


ゾワゾワゾワッ

センジュの全身に鳥肌が立った。

身の危険を察知した。

センジュは瞬時に近くにあった大きな窓から飛び出した。


「センジュ!何処へ行く!」


_帰る!・・綺麗な羽根を持ってるくせに・・考えてる事は・・心は醜い!!


一目散に駆け出した。

正直、道を覚えている訳ではない。

空を飛んできたからだ。

しかし、魔界へ繋がる階段への道は一つしかない。

ウリエルも後を追いかけた。純白の翼を広げ飛んできている。


「待て!センジュ!」

「来ないで!」


_私はパパを護る!魔界の皆を護る!!パパとママの絆を引き裂くなんて・・外道だ!!


背中の羽根なんて、引きちぎれば良かった!!
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