魔界の華は夜に咲く
訓練場には木で造られた的が立っていた。
フォルノスは腕組をしながら言葉を発する気配がない。
セヴィオが来たせいでとてつもなく不機嫌そうだ。
近くで見ていたセヴィオはきょとんと首をかしげる。


「なんだよ、始めないのか?」

「お前が割って入ってきたんだろうが」

「そりゃ悪かったな、すっげー楽しそうだったんで」

「・・・」


それを見たセヴィオはやれやれと言わんばかりにセンジュの隣に立った。


「フォルノスはご機嫌斜めだ。仕方ねえから代わりに俺が見本を見せてやるよ」


「見本・・?」


セヴィオは右手をまっすぐに伸ばすと手のひらを一度広げ、力を込めた。


「!」


パチパチ・・バキッ!
20メートルほど先にある的がひとりでに燃えて焼け落ちた。


「え?え?」


何が起きたのかわかるはずもないセンジュはぽかんと口を開けた。


「これが俺の力。あんたの力がどんな力なのか、今日はそれを見せてもらう」

「そ、そんな事言われたって・・やった事ないし・・私に力なんてないし」

「はあ?あんた、あの方の娘なんだろ?血が流れているんならできる可能性はある。ま、出来るか出来ないかだけでも今日は知りたいしな」


「でも・・」


_そんな事が出来たら、自分が怖いし。使いたくないし。そんな変な力・・。


「おい」


セヴィオも短気らしい。目つきが細くなった。


「早くしろよ。こっちも暇じゃねんだよ」


ドキン


_こわっ・・さっき暇そうに出てきた癖に・・。
うぅ、見様見真似でやってみるしかない。は、恥ずかしい・・なにこれ。



「こ、こう・・ですか」



右手をまっすぐに伸ばし、手のひらに力を込めた。


・・・しん。


特に何も起こる気配は無かった。



「・・ええと・・」


気まずい雰囲気が3人に流れる。


_ほらああああっ!!!どど、どうしたらいい!?この空気!!恥ずかしさマックスなんですけど!!


その空気を割るようにセヴィオが言った。


「まあ、いきなり出来たら一番楽だったけどな」

「あ、そう・・なんですか?そんな簡単な感じじゃないって事ですか」

「魔王の娘だからそこは期待はしてたんだけどな」

「ええと・・」


_その言葉一番重いんですけど。しかも勝手に期待されても困るし。



セヴィオは首を傾げながらフォルノスに視線を送った。

フォルノスの表情はほぼ無だ。


「どする?」

「・・・いつ力が目覚めるかは、そいつ次第の様だな。死にかければもしかすると発揮するかもしれん」



_死にかける・・とは?



瞬時に背筋が凍った。嫌な予感しかしない。


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