篝火
篝火
佐橋雄馬は悪魔だ
「な———お前昨日風呂入ってねーだろくっせーんだけど」
「眼鏡曇ってるよ眼鏡ー」
「頭脂ぎってるのきめぇ———速やかに死んでくださ———い」
天使の皮を被った悪魔
「すいません…すいません…」
「やっばこいつマジきったねえわ手ぇ汚れた」
「おっまえおれの袖で拭くなって」
「何食ったらそんな脂ぎれんの? 呼吸すんな息止めろ風呂と結婚しろよ」
「遊馬それは笑う」
「はいみんな席つけ———」
学生簿を持って入室した担任の声でし茂木《もてぎ》甚介に戯れていた一行は散り散りになって席に着く。
ガタガタと必要以上に音を立てて座る佐橋達のことも気に掛けず朝礼を始める五〇幾つの担任と、その頃小さくなった甚介の背中がほっと息をつくのを皮切りに今日という日が始まるのだ。
机の下で手早くスマホ操作をしメッセージを送信する。
《おはよう甚介》
《おはよう、叶恵ちゃん》
《大丈夫》
《大丈夫だよ》
《いつ佐橋殺そうか》
椅子の背もたれの後ろでぐ、と親指を突き立てる甚介の手を頬杖をついて見物する。
そのとき近頃決まって真ん中の席の佐橋遊馬が私に振り向いて笑うのだ。
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