篝火
我ながらいい腕前で、甚介に入れた鋏は初陣だったのだけれど、茂木甚介は私の手によって、それなりの人間に仕上がった。この歳になって幼馴染みの裸体を拝むことになるとは思わなかったけれど、体の隅々までもを私が入念に手を加えた結果、甚介は教室の窓際に座っていそうなただの冴えないくんへと変貌を遂げたのだ。
ホースで水をぶっかけたせいで三限目ずっと震えていた甚介を悪いとは思うけれど、別にいい。中休み明けで見栄えの随分変わった甚介を全員が動物園のパンダを眺めるような目で見回し、声を殺して囁きあったけれど、私は素知らぬ顔をしていた。
時間をずらして教室に戻れど、服の裾を濡らした私が後から帰ってきたのでは、きっとわかることだっただろう。
《叶恵ちゃん、僕、今別人みたいだよ》
《みんなが僕を見てるよ》
《すごく気分がいい》
《そうだ、佐橋のこといつころす?^^》
後ろ手で親指を立てる甚介を見てから、教室の真ん中にいる佐橋へと視線をずらす。
佐橋はにこやかに私を見ている。