地味で根暗で電信柱な私だけど、ちゃんと守ってくれますか?
 目の前の男の人にかろうじて似た男子生徒がヒットしたのはどれくらい経ってからだろう。サッカー部に在籍していた黒髪を短くした少年の姿を私は思い出した。

 ニカッと笑うと左エクボができる男子だ。

「桜井……春樹くん?」
「久しぶりだな」

 彼がニカッと笑った。左エクボができる。

 私と同い年にしては老けて見え、少々面食らった。いやあなた四十代前半と言っても通じるよ。

「まさかこんなところで清川と再会するとはな」
「うん、私もびっくり」

 特にあなたの顔とか、という言葉はどうにか飲み込んだ。

 桜井くんはまだ話をしたそうだったけれど他のお客さんに声をかけられ会話はそこで途切れた。

「じゃあ、またな」
 後ろ手に振って階段口へと向かう彼を目で追いつつ私はお客さんのお問い合わせに応対する。

 胸の中で私の書いたラブレターを受け取った高校生の彼が爽やかに笑っていた。

 結局、彼にはフラれてしまったけど……。

 昔好きだった人に会っちゃった。

 そう思うとちょっとだけロマンチックな気分になる。ああでも今は老け顔だしなぁ。

 てか、仕事しなくちゃ。

 私は意識して営業スマイルを自分に貼り付けた。
 
 
 
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